SPECIAL INTERVIEW


このインタビューはアルバムの構成やレトリック(修辞法)にも一部触れています。
既に購入されている方、購入を決めている方は、
一度フラットな状態で聴いてから読む事をオススメいたします。
まだ購入を迷われてる方は、是非お読みください。
買って間違い無いアルバムだと思って頂けると思います。


新作『OLIVE』は、いつ頃から制作に着手したんですか?

 構想は前作の『カタルシス』を作ってる途中からあったんです。その時点で、次は「生きる」がテーマだろうなって。ただ、新録曲を書き始めたのは2016年の秋です。10月から11月くらいに書きました。

その時点でのアルバムの設計図をもう少し詳しく教えてください。

 『カタルシス』は《語る死す》とのダブルミーニングになっていて「死すを語る」をテーマにしていたし、今回も「生きる」なので生と死を大きなテーマにしてるんです。たぶん、この世で本当に歌うべきことって、大きく言うと「生きること」「死ぬこと」「愛すること」「闘うこと」くらいだろうなと思うんです。死ぬことを生きることと見たり、生きることを愛することと見たりっていう感じで、起点がどこにあるかの違い。全部の曲がそれで説明できると思うんです。その意味で、『カタルシス』は、死と真っ正面から向き合うことで「カミツレベルベット」みたいなすべてを請け負う、生を肯定できる曲に辿り着いたものだった。それに対して今回は、LIVE=生きることを常に隣に置いたものにしたいなと思ったんです。それが最初の構想です。

制作作業が進むにつれ、その構想は少し変わっていったんですか?

 どっちかというと濃くなっていきました。「生きること」ってざっくりしてるじゃないですか。そのでっかいテーマがどんどんと濃く、強くなっていった印象です。あと、「生きる」に寄り添うものを作って行く過程、「生命力」を意識して作って行く過程で、「愛」の占める割合がどんどんと膨らんで行きました。

1曲目が「リインカーネーション」ということもあるんですが、今回は「生きる」の中でも、特に「再生」「甦生」というテーマを主軸に据えている気がしました。再生=何度でもやり直せるさ、というようなメッセージを全体から感じたんです。

 その通りで、再生が一番大きなテーマです。何度でもやり直せるとか、何度でも生きられるっていう。あとは、それを伝えるときに、ハッパを掛けるというよりは、一緒に進んでいく感じを大切にしたいなと思ったんです。前作では「ネガティブをひっくり返す」ということもテーマにしていましたが、それをさらに押し進めて、何回やってもネガなことはずっと付いて回るから、もう一緒に連れて行っちゃおうぜっていう感じ。「リインカーネーション」や「BIG PARADE」「アドベンチャー」で歌ってることは、嫌いな自分とかを封じ込めたりするのではなく、そんな自分も引き連れて進んでいくんだっていうことを前向きなヴァイブスで歌いたかったんです。

実際、リリックに「手を繋ぐ」「手を取る」「手を掴む」「手を離さず」といった言葉が出てくる曲が4曲もありますよね。誰かを鼓舞するとか励ますというより、誰かを救う、誰かに手を差し伸べるというスタンスがとても強く伝わってきました。

 良かった。そこを強調したかったんです。

全体的にネオソウルやファンク、ディスコなど人肌感のあるソウルミュージックを下地にしたサウンドが多いですが、それは「生きる」というテーマとリンクしているんですか?

 そうです。音像は極力オーガニックにしようと。ソウルは文字通り、魂だと思うけど、生命力を感じるサウンドにしたかったんです。

正直言うと、今回こういう温かみのあるサウンドで来るとは思ってなかったんです。もうちょっと現行のヒップホップスタイルやオルタナティブR&Bなど、打ち込みを使ったデジタルな音で来るんじゃないかと思っていたので。

 温かみのある方向に振り切れたのは、SALUとの『Say Hello To My Minions』があったからっていうのもありますね。

揺り戻しっていうことですか?

 というより、あのアルバムを作って、現行っぽいものはやろうと思ったらいつでもやれるなと思ったんです。であれば、音像はその時々で変えていってもいいだろうと。ファッションもそうだけど、今年買った服が来年着られないみたいなことはあるから。SALUとのコラボみたいなのは短い制作期間でパッとやらないと意味がないと思うんです。ああいうのはその都度いちばん流行りのスタイルをいちばんかっこよく着こなすスタイルでいい。でも、オリジナルアルバムになると、アルバムに込めたメッセージを伝えるためにツアーを回ったり、長い期間付き合うことになる。いまだに『カタルシス』の話をされたりするし、一年どころじゃない期間で評価を得るものだから、より濃く強いものを作ろうと思ったんです。

『OLIVE』というアルバムタイトルはどんな思いから付けたんですか?

 まず初めに「生きる」がテーマだからLIVEという単語には絶対いて欲しいと思ったんです。同時に、これまであまりないパターンなんだけど、アルバムのジャケットのビジュアルが浮かんできて。無機物の中に有機物がドンとある感じをやりたくて、でっかい1本の樹が無機質なコンクリートを突き破って生えてるイメージが浮かんだんです。その樹をうまくアルバムタイトルにできればいいなと思ってたら、「あ、OLIVEだ」ってひらめいて。あと、結果的に今回はモロにラブソングっていうのが多くないんです。だけど、手を差し伸べるとか救うとか愛情はアルバム全般通してあるから、それを言いたいなって。そのときにOLIVEならI とOをひっくり返せば「I LOVE」になるアナグラムにもなる。それくらいスッと愛が忍び込んでる感じがいいなって。

オリーブには「平和」とか「安らぎ」という花言葉もありますしね。

 オリーブは女神アテナが作った樹で平和の象徴と言われてますし、古代オリンピックではオリーブの葉で作った冠を勝利と栄光の象徴として与えられた。ギリシャ神話を調べてみたら、パルテノン神殿がある丘にかつてアテナが植えたオリーブの樹があって、ペルシャ兵が攻めてきて燃やしたんだけど、翌日にまた葉を茂らせたっていう伝説もある。そういうのも込みで、すべての線が自分の中で繋がって「あぁ、導かれたな」と思いました。

その他、本作を作って行く上でこだわっていたことや大切にしていたことは?

 ひとつは一貫性です。ストーリーの一貫性と空気の流れをちゃんと保つこと。それは作りながらずっと気にしてました。10月に書き始めた段階から「こういう曲を書いて、その前にはこういう曲を置いて、その次にはこういう曲が来て、この曲は数曲あとのこの曲に届けるために書いてる」みたいな作り方をしていました。『カタルシス』でもそうやってシーンごとに撮っていく映画のような作り方をしていたんだけど、前回はそれが伝わらなくてもいいやという気持ちが正直あったんです。でも、思った以上にそれを吸い取ってくれるメディアやリスナーがいたから、じゃあ、もっとやろうと思って。

ということは、前作に続き、今回もコンセプトアルバムでもあると。

 『カタルシス』よりもさらにコンセプトアルバムかなと思ってます。最終的に「歓びにあふれてる」って言えるよう一貫した流れを考えたから。『カタルシス』は、振り幅があるというか、モノの見方や切り口が左右に行き来するアルバムだったんです。たとえば「As A Sugar」と「Luce」と「Ms.Liberty」と「スマイルドロップ」は視座が全部違う。それは音像のバラつきをちぐはぐにさせないための手段だったんです。今回は音像を統一して、尚且つ、見方も一貫させてアルバムのストーリーを展開させて行きたいと思っていて。

Aという曲のBという歌詞がCという曲のDという歌詞に繋がってるというような仕掛けや遊びもありますしね。そういう部分でもコンセプチュアルです。

 そういうのは前回よりわかりやすくやってますね。「アドベンチャー」で《BIG PARADE》って言っちゃったり(笑)、同じ言葉を違う曲で使ったり。あと、今回はアルバムの流れを重視するあまり、曲を無駄遣いしないっていうのも大切にしてました。アルバムの中では存在意義があるけど単曲では聴きづらいというようなものは一切ないようにしようと。そのためにちゃんとサビをメロディアスにするとかキャッチーにするとか、そういう部分を大切にしたし、きれいなメロディーを提出したときにそれを活かす編曲をしてくれたり、自分がやろうとしてる意図を汲み取ってくれるプロデューサーと仕事をしたんです。

2016年4月に喉の手術をし、楽曲制作から1ヶ月ほど離れた生活を送りました。そのことが今回のアルバムにもたらしたものはありますか?

 たくさんあります。まずは結果的にそのことをネガティブに捉えなかった自分がいるから「ナナイロホリデー」が生まれたし、その曲で《夢の中より現実は歓びにあふれてる》と言い切ったことで、自分の中でもそう思えたところがあるんです。それがいちばん大きいかな。振り返ってみると、中学生の頃から何かしらのカタチで音楽をやってきてるんです。あの時期はそれをやらなかったわけだから生き物としては生きてるけど、ある定義のヒト=音楽家の自分としては死んでる状態だったわけで。それを経験したがゆえに「生」の喜びをより強く感じられたし、その後それがバンドメンバーやダンサーとツアーを回れる喜びや、そこに来てくれる人に音楽を届けられる喜び、すべてを引っくるめた「歓び」に変わっていったから。

気持ちが内から外に向かっていったように思います。

 まさに。『カタルシス』のときはまだ自分がどう見られたいかっていう部分があったんだと思うんです。スキルのアピールも含めてエゴがあった。結果それがアルバムの緊迫感と密接だったから良かったんですけど、今回はそういう部分がほぼなかったんですよね。だから、手術以降の生活は濾過がすごかったです。さっき話した喜びが、自分自身や音楽、リスナーに対する愛の深さに繋がっていって、不純物がどんどん取り除かれていった。

今回のアルバムには幸福感が漂っていると思うんです。でも、それは歯を剥き出しにしてニカッと笑うというより、幸せを噛みしめてる感じ。アッパーでメチャメチャイケイケです、っていうテンションじゃないなと。

 そうですね。それが俺の本質かも。夏のパーティーチューンで「ナナイロホリデー」を作っちゃうっていう。スタジアム系のEDMをやらなかった俺の本質というか(笑)。幸せを感じるより、マイナス面を見つけるほうがラクなタイプだから、『OLIVE』より先に『カタルシス』が生まれるんだと思います(笑)。

術後に楽曲制作をストップさせていたとき、ギターの練習を始めたと言っていましたよね。今回はギターが前面に出ている曲が増えましたが、それも術後の生活がもたらしたものなんじゃないですか?

 そうです。ギターが増えた理由は2つあって、オーガニックなサウンドを求めた結果と、実際弾くようになったらギターに耳が行くようになったっていうことですね。もともとギターを始めたのは、ギターを弾くようにしないと、自分の音楽力がいびつになるなと思ったんです。僕は曲をバンドアレンジするとき、まずドラムに指示を出すんです。次にキーボードに指示を出して、ホーンに指示を出す。ベースに関してはドラムとの絡みをちょこちょこ言うくらいで、ギターに指示を出すことがなかったんです。それは自分が「ギター耳」じゃないからだなと思ったんですよ。じゃあ、自分が弾くことから始めようと。

なるほど。

 あと、術後の変化がもうひとつありますね。歌が上手くなりました(笑)。

あはは。けど、実際、今回は「歌ってる」曲が多いですよね。発声の幅も広がったし、高音もより出るようになったと思いました。

 術後、急に海外に行くことになったりして落ち着いて復活の準備ができず、5月にステージに復帰したら全然声が出なかったんです。思うように出せなくて自分でもビックリして、それがトラウマになりかけて、ジストニアになってしまい。それが怖くて怖くて、知り合いから紹介してもらったボイストレーナーのところに通うようになったんです。そしたらハマって、歌うことに対する意識が変わって。それまでは「ラッパーとして歌う」という意識だったんですけど、本気で歌えるようになったんです。簡単にいうと、歌でメロディーを鳴らすっていうことに対する意識が変わった。今回、メロディーを重視した作りに特化しようとしたのも、その影響があると思います。

歌心の変化は「明日晴れたら」に顕著だと思いました。歌い出しの発声法とか途中のソウルフルな唱法とか。

 実は、「明日晴れたら」はターニングポイントになった曲なんです。アルバム制作の序盤に1回録って、中盤で録り直して、終盤にもう1回録り直してるんです。というのは、ボイトレの先生のところに行って話してたら、「もっといけるな、もっと歌えるな」と思えてきて。結果、最後のテイクにまるっきり差し替わってるんです。最初に録ったテイクと最後に録ったテイクは1ヶ月しか違わないのに全然違うんですよ。たぶん最初は、「もっと歌じゃないアプローチをしようかな?」っていう迷いがあったんです。それが2回目は「もっと歌えるかも」っていうチャレンジになって、3回目は完全にこういう歌をうたう人間としてレコーディングしてた(笑)。その自信が曲に表れてると思うんです。

先行シングルの「Double Down」は、どんなキッカケで作ったんですか?

 この曲を作ったのは2016年の夏フェスのあとなんです。8月までは、さっき言った通り、喉の出術をして歌えるか歌えないかわからない、みたいな日々で、歌に不安を抱えていたんですね。そんな中、「ROCK IN JAPAN FES.」に呼んでもらえたんですけど、「ROCK IN JAPAN FES.」はメジャーデビューした2013年にテントステージに呼んでもらったとき、人が全然集まらなくて悔しかった思いがあるんです。だから今回は、個人的にリベンジを果たしたいと思っていて……。でも、ステージで思うように声が出ないこともあったから不安を抱えたまま当日を迎えたんです。そしたら自分でもびっくりするくらい声が出て……。あの日のステージには、最初からの3年どころか、これまで生きてきた30年をベットしたような心境で臨んでいたから「勝ったー」と思ったんです。

それでライブ感のある曲を作ろうと?

 そうなんです。「ROCK IN JAPAN FES.」のステージが終わったあとに、「今年の冬もお願いします」って言ってもらえて、実際出られることになった。じゃあ、今度は冬フェスをロックしに行こうと思ってライブ感を重視して作ったんです。

ダブルダウンというのはカードゲームのブラックジャックで使う用語ですよね。手持ちの掛け金を2倍にできるけどカードは1回しか引けないっていう。

 そうです。あと、10ドル掛けて負けたら、次に20ドル掛けて、それで負けたら40ドル掛けてっていうふうにやっていくと、1回勝ったら全額回収できるから負けませんっていう兵法もダブルダウンと言うそうなんです。それって、勝つまでやめなかったから負け知らずっていうことになるなと。実際にそれを体験しようと思ってシンガポールのカジノに行ってきたんです。ダブルダウンをして、ひりつく感覚を味わってきました(笑)。でも、やっぱりステージに立つ方がそれよりひりつくんですよ。だから、その感覚も含めてちゃんと楽曲に還元できてます。だって、この曲、帰りの飛行機で書きましたから(笑)。

アルバムのリード曲「アドベンチャー」は、どんな思いで作ったんですか?

 アルバムを通して言っていることを直接言っているのがこの曲です。そういう曲をアルバムの真ん中に置くことで、1回クライマックスを迎えられたらいいなと思ったんです。「アドベンチャー」というタイトルは、「ナナイロホリデー」の《この冒険の続きはそこでしよう》との繋がりを考えてのことだし、「リインカーネーション」と「BIG PARADE」との繋がりも考えて作ってる。《行こう 別れを手にとって 最後の瞬間を愛そうぜ》って歌ってますけど、それは「別れを愛する曲」だと言っていた「クロノグラフ」にも繋がってます。別れとか痛みとか恐怖とか、そういうネガティブなことを連れ添ってどうするかと考えたときに、「ええじゃないか」と踊るんじゃなくて、「行こう」だと思ったんです。ネガを掬い取ったら、もう前に行くしかないなって。

歌詞の最後に「リベンジ」という言葉が出てきますが、ネガティブを受け入れて逆襲の狼煙を上げようということですか?

 このリベンジは仕返しというよりは、もう1回戦いに行くっていうニュアンスなんです。「Double Down」もそうだけど、ロックシーンとか音楽シーンに対するリベンジっていうと、俺が復讐心に燃えてるように思われるかもしれない。でも、そうじゃなくて、もう1回戦えることに歓びを感じてるし、前向きなリベンジなんです。「アドベンチャー」で伝えたかったことはまさにそれ。今日より明日を良くしよう。それはこれから、今ここからだっていうことを伝えたかったんです。

そもそもアドベンチャーという言葉には、なんともいえないワクワク感がありますしね。好奇心も感じられる言葉だから前向きさがあるし。

 そうなんです。「Double Down」で《絶望、恐怖、混沌》と言ってるけど、「そういうのに挑んでいく!」っていう感じだと、どこか攻撃的な感じが出ると思うんです。そうじゃなくて、その闘いを楽しんでワクワクして乗りこなす。そういう心情を示す言葉はアドベンチャーだなと思ったんです。

「Walking on Water」はMUROさんがトラックメイクを手掛けていますが、実は初コラボになりますね。

 ソウルがテーマだったからMUROさんしかいないだろうと思ったんです。で、全体的に温かみのある音像になりそうだったから、強度のある骨太なヒップホップナンバーをお願いしようと。この曲は今回唯一、ヒップホップを作ろうという意識があった曲ですね。闘う強い曲を1曲やりたかったんです。で、本当に何と闘いたいかっていうことは、次の「How Much??」で歌っているから、そこに行くために自分の強さを書こうと。だったら、とことんボースティングしようと思ったんです。暴論がないと、「How Much ??」みたいな曲が正論っぽくなりすぎて、教科書っぽくなっちゃうのが嫌で。

その「How Much??」は、どんなキッカケで作ろうと思ったんですか?

 前作の「F-3」じゃないけど、社会派ソングみたいなのは絶対入れたかったんです。でも、ただ暗くてシリアスな曲にしたくなかったんです。そういうテーマこそ、アッパーなサウンドで、ライブでみんなが歌えるような曲でやろうと。だから、わかりやすい言葉でメッセージが届くような曲を作ろうと考えたんですけど、答えは明確に示さないようにしとこうと思ったんです。こういう矛盾した正義や感情との向き合い方は、生きてる限りずっとつきまとうテーマだから。これは初期段階からやろうと思っていたテーマの曲ですね。

アルバムで異色なのが「十七歳」だと思います。学生時代の反抗心と葛藤と淡い恋心を描いたストーリーテリングもので、どこまで実話なのか、ファンに波紋を広げそうな曲だと思いました。

 どの部分が実話かは想像にお任せします(笑)。アルバムで1曲はストーリーテリングものを入れようと思ってたし、ずっと大きなテーマで歌ってると感情移入できないような気がしたから、この曲で1回、視点を身近なレベルに落としたかったんです。「Stray Cat」は自分を野良猫に例えて闘う姿勢を歌ってるから、「明日晴れたら」というラブソングに行くまでに、誰もが想像のつく救いと別れを極力前向きなカタチで書きたかったんです。

アルバムで難産だった曲はありますか?

 いっぱいありますが、特に「創始創愛」は本当に締切ギリギリでした。

どんな部分で行き詰まったんですか?

 着地点ですね。もうその段階で『OLIVE』というタイトルもあったから、端的にラブソングとして捉えられるような曲じゃなきゃダメだと思ってたんだけど、「How Much??」で歌ってることを経て、対1で自分に向けて歌ってる「Over the Moon」にバトンを渡すためには、ヴァースでどこまで踏み込んで言うか悩んで。ヴァースで説明し過ぎちゃうとラブソングに聞こえなくなる。かと言って、あまり言わないのもわかりにくくなる。あと、わりと硬めの言葉を使ってるから《神様もキャパ的にキツい》とか、そういう柔らかい表現をいれて少し和ませようとか、そういうバランスは直前まで悩んでました。

「創始創愛」は人類愛や平和祈念をテーマにした曲ですよね。

 そうです。もう「世界平和」と言ってますから。でも、自分と向き合うことの大切さを語る、という意味では(マイケル・ジャクソンの)「Man In The Mirror」とかに近いかも。

「創始創愛」というタイトルは、どんな思いでつけたんですか?

 「愛を生み出すことから始めよう」みたいな意味を込めたんです。その主語が「自分」であれば意思表示になるし、「みんなで」になれば意識の喚起になるし、「君と」を入れればラブソングになるので、広く解釈してもらいたいなと。この曲は社会全体の決してポジティブじゃないところに焦点を当てているけど、それはすべて前向きなメッセージのため。曲単体としての強さもあるし、次の「Over the Moon」で自意識を切り替えるためのジャブとしても、アルバムで欠かせないピースになったと思います。

「Over the Moon」は新進気鋭のシンガーソングライター、ビッケブランカがトラックメイクを担当していますね。

 初期段階からこういうミュージカル調の曲、クイーンっぽいフレーバーの曲をやりたいなと思っていたんです。それで自分でデモを作ってみるんですけど、納得いくものができず、ちょっと諦めかけていたんですね。そんなときに偶然、仕事帰りの車で聴いてたラジオからビッケブランカの曲が流れてきて。そのときは名前も知らなかったんですけど、「この人だ!」と直感してお願いしたんです。

歌詞は、諦めの境地からの前向きソングという感じですね。限界を知った上での覚悟というか、「でも、やるんだよ」イズムが感じられる。

 テーマは「しょうがないさ」なんです。それでも結局人生は続いてるっていう。社会の問題を提起をする「How Much??」のあとにそういう曲を聴かせたかったし、この曲を経て「クロノグラフ」にいくと、「クロノグラフ」の破壊力が増すなと思うからすごく大事な曲。たまたまラジオでビッケブランカを聴いたことも含めて、神の、オリーブのお導きがあるとしか思えない曲になりました。

『カタルシス』ではラスト前に置かれた「アイリスライト」が、シングル発売時とは違ったメッセージに聞こえました。今回の「クロノグラフ」もそうなってると思ったんです。

 僕もそう思ってます。これはよくできたと思いました。我ながら最後の流れは大好きです。

シングル発売時、「クロノグラフ」は恋人との別れを歌ってるように聞こえていたけれど、アルバムを曲順通りに聴いてくるとダメな自分との決別を歌ってるように思える。過去の自分とのサヨナラのように聞こえるんですよね。

 それを意識してたんです。で、その気持ちを味わったあとに「ナナイロホリデー」に進んで、それでもここ(現実)は夢の中より歓びがあふれてるって言い切れたら、この曲に説得力が出てくるなと思って。「ナナイロホリデー」をシングルで出したときは、なぜ歓びにあふれてるのかっていうところまで言い切る必要がないと思ってたんです。それはアルバムで言おうと思ってたから。

最後に改めて、本作を作りあげた感想を教えてください。

 『カタルシス』のとき以上に、思っていたものが思った通りに作れました。そういう意味での達成感がすごくあります。あと、今回のアルバムを作っていて、音楽との距離がすごく縮まっていることを実感しました。制作期間は本当に短かったけど、湯水のように言うべきことがあふれてくるし、そこに嫌な計算もなかったから。アルバム制作を立ち上げたときは狙いしかないわけですよ。プロットを書いて、シナリオを書いて、こういう流れにしようって考えてるときは狙いしかない。なのに、いざ曲作りに入って音楽と向き合ったとき、その狙いは前提としてすでに消化された状態になっていて、良い歌詞、良い曲、良いメロディーを書こうということにスッと集中できた。しかも、それを短いスパンでたくさんやれた。それが自信に繋がったというよりは、自分と音楽との距離がそこまで縮まってるんだと感じられたんですよね。

それがまた自分の歓びに繋がってくるでしょうしね。

 そうなんです。今は音楽に対して本当にナチュラルだし、渇望があまりない。それってすごく前向きなことだと思ってるんです。このアルバムを出してホールツアーをやって、日本武道館をやったら、やっと以前から言ってた土俵に立てる気がします。あれこれポップスターの名前を挙げて「こういうものと並べられて勝負できないといけない」って言ってましたけど、やっとそのレベルに達せられるアルバムが作れたんじゃないかと思いますね。

インタビュー・文/猪又 孝

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